労働基準法では、労働時間等の規制になじまない

重要な職務に就くいわゆる「管理監督者」である社員

については、残業代の支払いを強要していません。

 

このルールを誤って理解してしまい、

「部長や課長などの役職者にして、役職手当を払えば、

残業代の支払いは不要になる。」と思い込んでいる

経営者が居りますが、必ずしも正しいとは限りません。

 

●陥りがちな管理監督者に対する誤った認識

管理監督者は、経営者と一体で同格と言える社員である。
⇒中小企業では、社長と同様の権限を持つ社員はほぼいない。
⇒中小企業には、管理監督者と言える社員はほぼ存在し得ない。

 

管理監督者について改めて考えてみたいと思います。

 

 

 

【管理権限または監督権限のどちらかがあればよい】

労働基準法の条文には、「監督もしくは管理の地位

にある者」には、労働時間等の規制を適用しないよ!

と書いてあります。

 

「もしくは」とは、「または」という意味なので、

英語で言う「or」であって、「and」ではありません。

 

したがって、「管理+監督」権限の両方を持つ必要

はなく、どちらか一方だけでよいことになります。

 

「管理」権限とは、採用、配置、異動、休職・解雇

等に関する権限をいいます。

 

一方、「監督」権限とは、

社員に業務の進め方を具体的に指示する権限をいい、

健康診断の受診命令も含まれます。

 

したがって、

・部下はいないけど、管理権限は持っている人事課長
・管理権限はないけど、社員を直接監督する業務課長

は、管理監督者である可能性があります。

 

 

 

【事業所内での管理・監督権限があればOK】

労働基準法は、企業単位ではなく事業単位で適用

されます。

 

「事業」については、こちらをご参照ください。

 

管理監督者は、経営者との一体性を求められていますが、

その権限が及ぶ範囲は、企業全体である必要はなく、

自分が属する事業所内に及べばよいことになります。

 

したがって、

企業全体に関わる重要事項を決める会議に出席しない

管理監督者も存在し得ると考えてよいでしょう。

 

 

 

【出退勤が自由である必要があるか?】

行政解釈では、管理監督者は「出社・退社について

厳格な制限を受けない者」とされていますが、

出退勤が自由でなければならないのでしょうか?

 

タイムカードで勤怠管理をしていた場合、

管理監督者性を否定されてしまうのでしょうか?

 

この点については、現代社会の状況を考慮すると、

出退勤について自己管理できる権限を与えれば足り、

労働安全衛生法による労働時間の把握義務のため、

タイムカードによる勤怠管理をしていたところで、

管理監督者性は否定されないと考えます。

 

ただし、

実際に定刻でないイレギュラーな出退勤をした場合に

遅刻や早退として評価し、賃金などで不利益な取り扱い

をする場合は、管理監督者として認められないでしょう。

 

 

 

【結果として部下よりも給料が安くてもよいか?】

管理監督者には、残業代の代わりに役職手当を支給する

のが一般的ですが、繁忙期に多額の残業代が部下に

支払われた結果、管理監督者の給料が相対的に低くなる

という現象が起こり得ますが、これっていいのでしょうか?

 

裁判では、管理監督者性を否定する事情として

この点を指摘する事例があるのは事実です。

 

役職手当が残業と関係なく支給される安定収入なのに対し、

残業代は残業しないことには支払われないことを考慮すると

繁忙期に一時的に逆転現象が生じる程度であれば

管理監督者性を否定されるとは限らないと考えます。

 

ただし、総労働時間を基準に時給換算した結果、

最低賃金額を下回るような場合は、管理監督者性を

否定する極めて重要な要素となることをお忘れなく。

 

 

 

【結論】

中小企業でも、管理監督者に該当する者は存在し得る。



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